新・不定点観測

赤星豊

vol.12 お引っ越しまであと2日

 引っ越しの用意にまだ全然手をつけていない。引っ越し屋からもらったダンボールは部屋の隅に畳まれたまま。束ねた紐さえ解いていない。どれぐらい時間がかかるか見当がつかない。もしかしたら一晩でできるのかもしれないし、二晩でも無理なのかもしれない。二晩かかるなら、今からすぐにでも手をつけなきゃいけない。でも、どうにも今晩もやる気がおきない。朝から今も降り続いている雨のせいだ。そうだ、きっと雨のせいだ。

 今日は午後から税理士のシマヅさんと会社の経理の話をした。会社が相当にヤバい状況であろうことは分かっていた。彼女はぼく以上にそれを分かっていながら、あえて指摘しないでいてくれる。いつも穏やかな笑顔で、ぼくの将来的な戦略プラン、つまり絵空事にしかすぎないことに耳を傾けてくれる。こんな最高の税理士と別れるのも惜しいので、倉敷と東京に離れても、今後の税理を彼女にお願いすることにした。ま、なんとかなるだろう。ならなければ、ならなかったときに考えよう。

 打ち合わせが終わって、代官山にフォトグラファーのマチェイに会いに行った。彼はプシェメク(KJで連載しているアーティスト)と同じくポーランド人だが、プシェメクから紹介してもらったわけでもなんでもない。2カ月ほど前にたまたま彼がネットでKJを発見し、コンタクトをとってきた。彼には次号で写真を撮ってもらおうと思っている。倉敷をテーマにした雑誌に、ふたりのポーランド人アーティストがまったく別のカタチで参加しているというのも面白いと思うね。ちなみに、彼は来週にも倉敷にやって来て撮影する予定だ。何を撮影するかは、まだ教えない。

 夜は映画監督のテッちゃんと税理士のシマヅさん、それに近所の美容院のウラ夫妻と一緒にご飯を食べた。場所は中目黒の和食屋「雲井」。ここではテッちゃんやウラくんと何度一緒にご飯を食べたかわからない。それももうしばらくないと思うと、やっぱり少し寂しい気がした───「寂しい」とか「悲しい」と言うのはもういいかげんやめよう。何度もこんな場所で書く言葉じゃない。ところで、ぼくが帰る前にと食事に誘ってくれたみんなに「ありがとう」の一言も言わなかった。帰り際はあっさりしていた。テッちゃんは、「じゃあオレ帰るわ」とひとりで駅に向かった。ウラ夫妻とは、いつもしょっちゅう一緒にいた仲で(昨年はロンドンにも一緒に行きました)、「もしかしたらウラくん泣くかも」と思ったけど、気配さえなかった。シマヅさんには、寒いからと、帰りにぼくのウインドブレイカーをあげた。彼女はいつもの笑顔で去って行った。もちろん、ぼくのウインドブレイカーを着て。

 さて、こうして今晩ぼくはひとり。時間はもう2時になろうとしている。窓の外では、車のタイヤがしぶきをあげる音が聞こえる。このコラムをアップしたら、ちょっと荷物に少し手をつけてみよう。マンガを読んでもいいけど、マンガよりもさらに集中できそうな気がする。これから眠くなるまで引っ越しの用意だ。