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新・不定点観測写真と文:赤星 豊(krashjapan発行人)

vol.441 受賞の予感

 昨日きたメール、送信者に外国人の名前があった。件名は「FUJI YACHT SCHOOL UNIFORM」。すぐにピンときた。ピンときて、ドクンドクン、心臓が大きく脈を打った。
 NYADCという。「ニャデック」とか「ニャドク」とか変な読み方をしそうなこいつ、正式名称はニューヨーク・アート・ディレクターズ・クラブ。毎年ニューヨークで開催される世界的な広告のコンペである。ちょうど2年前、このNYADCのマガジン部門にKJを作品として応募していた。そのときは歯牙にもかからなかったのだが、1回ぐらいでへこたれたりしない。今年もKJのvol.8(写真特集号)を応募していた。同時に、ポスター部門で富士ヨット学生服のアニメ風の男女のポスターを送っていたのだった。外国からのメール、その件名が「富士ヨット学生服」といったら、受賞の通知じゃないのか、これ?
 ドキドキしながらメールを開けた。
「エントリーしてくれてありがとう!(実際は英語です)」
 どういたしまして! 出品料やらなんやら結構お金がかかって痛かったぞ。
「あなたが送ってくれた、あのボーイのポスターが………」
 おお、ついにやった! あの男の子のやつかああ!
「……運搬中に破損してしまっていて、新しいのを送ってもらえる?」
 おおおお! 破損したのかあ、破損したって……破損? 新しいのを送る?
 文面はそれだけ。うーん、このドキドキはどうしてくれる? それに新しいのなんてないから、また出力屋さんにお金を払って出力を出してもらわなきゃいけない。郵送代もえらく高い。また1万円以上の出費だ……もういいかげんやめようかな、こんなの。
 そのときである。ぶ厚い雲が低くたれ込めたぼくの脳裏に、一条の光が差し込んだ。
(待てよ、破損してたから新しいのを送れって、こりゃ脈があるってことじゃないのか? 破損って、ポスターがミンチになってたわけじゃなし、ある程度の判断はできたはずだ。そこで「これ、悪くないね」なんてことになったから、再度送れって言ってきてるんじゃないか?)
 それからの行動は早かった。早速、出力を手配し、翌日の今日、国際郵便でニューヨークへと送った。帰りの車のなか、受賞はぼくのなかでは可能性があるどころの話じゃなく、もうすでに事実となっていた。ニューヨークでの受賞式には何を着て行こうかと、ずっとそんなことを考えていたのだった。
 受賞の発表は4月あたり。結果はもちろんこのコラムでご報告させていただきます。乞うご期待! 

vol.440 リース不可

 事務所のプリンターを買い替えるプランがしばらく前から浮上している。現在、うちで使ってるレーザープリンターは、リュウくんが岡山の事務所で以前使っていたものだ。相当な気分屋で、毎度色の出方が違う。音がうるさい。A4をプリントしようとすると必ず紙づまりするなど、かなりの問題児である。
「もう我慢ならん、新しいのを入れる!」
 そう決断したのが1月のこと。すぐに某OA機器のリース会社Zに連絡し、コピー機との複合機の見積もりをお願いした。その時点では明日にも買い替えるようないきおいだった。ちょうどそんな折、12月に購入してあった現プリンターのドラムカートリッジとトナー4色分の請求書が届いた。そこにある数字を見て驚いた。なんと9万円台の数字が記されていた。高いとは聞いていたけど、なに、レーザープリンターのトナーってそんなに高いの? 
 新しい複合機購入の熱が一気に冷めた。リース会社Zには「新しいトナーがなくなるまで買わない」とすぐに伝えた。しかし、ぼくのいきおいを感じて、すぐに買ってもらえると思っていたZの担当者は簡単にはあきらめない。しつこいぐらいに購入をすすめてくる。断りつづけるぼくに、「せめてリースの申請がおりるかどうかの審査を」と言ってきた。将来的にトナーがなくなったら会社でリースすることになるだろうから、そのときのために会社でのリースが可能かどうかの審査だけでもやっておいたら話が早いというのだ。ならばというので審査だけ受けてみた。
 担当者から結果の電話がかかってきたのは一週間後。
「おのお、お父様に連帯保証人になっていただけませんでしょうか?」
 寝耳に水だった。プリンターのリースに連帯保証人? うちのオトン?
「あのね、うちのオヤジは年金生活者で80歳も近いの。そんな人間に、50歳も近い男が連帯保証人なんてお願いできると思います?」
「はあ、そうですか」
「なになに、それって、ぼくの会社が審査に通らないってこと?」
「いまはリース会社も厳しいですから」
「なんでうちの会社じゃ通らないの?」
「業歴もありますし……」
「業歴って、うちも設立して5年になるんだけど。何年やったら認められるんですか?」
「やはり10年ぐらいは会社をつづけておられないと」
「ああ、そうですか。わかりました。社会がいかに弱者に冷たいかというのがよーくわかりました。いいですよ、リースなんていらないですよ。現金で買いますよ。だったらいいでしょ?」
「はい、現金の場合は納品してその場でのお支払いになりますが」
「払いますよ、払います。その場で現金で!」
 ちなみにそのプリンターの複合機は120万円ぐらいする。いったい、そんな現金がどこにあるのだ?
 この時点でぼくに新しい人生の目標が生まれた。うちの事務所のプリンターのトナーがなくなるまで(たぶん年内!)。それまでに現金120万円を貯めること。かなりのミッション・インポッシブルである。いったい、そんな貯金、これまでしたことないし。でも、絶対負けられない。弱者の意地を見せちゃるけん!

vol.439 大遅刻

 ここのところずっと続いている3時間睡眠から脱却すべく、仕事を1時半に切り上げた。さすがに眠らないとカラダがもたない。家に帰って風呂に入り、2時にベッドに入った。朝の8時まで6時間は眠れる。こんな時間に寝るのはホント久しぶり。やっぱ人間、寝ないとね。6時間とはいえ、ああ、なんて幸せ。なんてつつましい幸せ―――眠れない。久々に眠れると思ったら、なんかワクワクしてきて眠れない。いつもは5秒以内には眠れるのに、30分経っても全然眠くならない。しょうがないから、ベッドから起きて、ソファに横になって毛布をかぶり、テレビをつけた。BSでオリンピックのジャンプをやってた。向かい風らしく、ことごとく距離が伸びない。距離が伸びないジャンプって、なんて退屈なんだ。これだったらいつの間にか眠れるだろうと思いきや、これがまたいっこうに眠くならない。結局、朝の4時まで淡々とつづくジャンプを見つづけ、またベッドに戻り、5時前あたり、やっと眠りに入った。その夜の睡眠時間2時間半なり。


 土曜日の朝、トーストの朝食を食べていたら、ヒトミちゃんから携帯に電話が入った。とろうとして、電話が切れた。でも、きっとあれだ。昨晩、電話で「調子が悪いから明日はもしかしたら」と言っていたから、「今日は休ませてほしい」という電話に違いない。もう間違いない。朝食を食べ終えたぼくは、またベッドに戻った。ヒトミちゃんが来ないんだったら、ちょっとぐらい遅刻してもいいだろう。朝は自分に甘いのがこのぼくなのだ。
 目が覚めた。1時間だけと思って目覚まし時計をかけていたんだけど、どうも目覚ましを切ってそのまま眠り続けたらしい。いまが何時なのかさっぱりわからない。頭は深い霧のなかに沈んだままだ。携帯を手にとる。留守電が入っていた。ヒトミちゃんだった。朝イチにくれた病欠届けの電話だ。とりあえず聞いてみた。
「もしもし、朝病院に寄っていくので、10時すぎになりまーす」
 思いもしなかった。なんて巧妙なトラップだ。頭のなかに立ちこめた深い霧が一瞬にして去り、ぼくは時計を見る……午後1時半。やっぱ人間、寝ないとね。でも、寝すぎとるね。すぐにヒトミちゃんに電話を入れた。
「もしもし、赤星です」
「はい」
「寝過ごしました。さっき起きました」
「はい」
「2時過ぎには行きます。どうもすいません」
「はい」
 またどっと疲れた。計算してみたら、8時間近く寝たことになるんだけど、眠い。めちゃくちゃ眠い。カラダも重い。全然休まってないみたいだ。


 事務所に着いてメールをあけると、翻訳の校正の催促が。「至急ください」とあった。そんなの言われても、ねえ。いろいろやることほかにもあるし。今日は寝たけど、あんまり眠った気がしないし。ぼくの都合はどうなるのよ? とは言いながらも、黒住みたいに催促を屁とも思わないような図太い神経ももちあわせていないので、たぶん今日も朝までやるんだろう。明日の日曜日もひとりで仕事してるんだろう。ああ、日曜日なんてはなからなきゃいいのに……。

vol.438 顔面神経痛

 朝、遠藤さんからの電話で起こされた。5年前に黒住光と3人でアメリカを旅した友人である。春からヨットで半年ぐらいかけて日本一周の旅に出ると言う。寝起きじゃなかったら、「寛平か!」とトシ風のキレキレの突っ込みを入れられたのだが、まだ頭は半分眠っている状態。「ああ、そうですか」と返すのがやっとだった。
「そっちにも寄るから、(停泊用の)港を用意しておいてよ」
 この人、会社を辞めてからいったいなにをして食べていってるんだろう? それにしても自由な感じでうらやましいでございます。オレなんか出張で一週間空けるだけで、オトンとオカンの晩ご飯のことが気になって仕方ないというのに。ともあれ、児島港に寄港の際は盛大にお出迎えをすることにしよう。


『風と海とジーンズ。』の色校正がほぼ終了した。ついに登頂、チョモランマだ。この冊子、いろんなものからパクってきた感がタイトルからプンプンしているが、クオリティはかなりのものと自信をもって言える。校正を目にした人が、単発で終わるのがもったいないと口をそろえるのもむべなるかな。継続の依頼があれば、ぼくとしてはもちろんやぶさかじゃない。もしかしたら、『Krash japan』編集長から『風と海とジーンズ。』編集長に肩書きを代えるかも。アジアンビーハイブ代表で『風と海とジーンズ。』編集長。全然わるくない。ここまでうさんくさい肩書きもないんじゃないか?(『風と海———』はKJvol.10とともに3月12日より配布スタートの予定です)
 体力は限界に近づきつつある。ここ3週間ほど、毎日家に帰ると朝の4時を過ぎてる。余裕があるときはそれからお風呂を入れて温まって寝る。余裕がないときは冷たいカラダのままベッドに潜り込む。起床は朝の8時。こんなの40歳過ぎてつづけられるほどタフじゃないのだ、ぼくは。おかげで昨日あたりから軽い顔面神経痛が出てきた。目が開かなくって、ときどき左の目尻がひくひくする。変な虫がいるみたいに。うっとうしいな、こいつ。


 チョモランマの次が待ってる。3月19日に納品予定の、ビッグジョンの70周年記念モデル(4人のアーティストがデザインしたアイテムを収めたセット。3月1日までHPで予約受付中です。http://www.bigjohn.co.jp/)に付録としてつく冊子。中身はだいたい固まってきたが、表紙がまだまったくできていない。来週に撮影して、再来週の入稿に間に合わせねば。さらに、3月27日には、看板やらDMやらショップカードのデザインをやらせてもらっているアウトレットショップ「D_MALL」が、うちの事務所のすぐ近所(ホントにえらい近所です)にオープンする(http://www.d-mall.co.jp/)。オープンまでちょうど1カ月、時限装置がカチカチ鳴り始めた感じだ。まだまだやらなきゃいけないことがたくさん残ってる。うーん、まずいな。
 今日も夕方、突然やってきての打ち合わせがスタートした。
「じゃあ、テープのデザイン、よろしくお願いします」
 帰り際に言われた。ヤバい、完全に忘れてた。
 

 というわけで、今日も深夜までパソコンに向かっている。左の目尻のあたりをヒクヒクさせながら。遠藤さん、いいなあ。


 

vol.437 怒濤の2蓮チャン

 この間、スーパーのマルナカでレジをすませ、レジを出たところで買ったものを袋詰めしていると、いきなり後ろから声をかけられた。
「アンタ!」
 うちの親戚かと思ったら、まったく見ず知らずのおばちゃんが。おばちゃんの買ったものを間違えてぼくの袋に入れてしまったとか。そんな感じのキッツい「アンタ!」だった。
「は、はあ?」
「アンタ、ええマフラーしとるなあ」
 そのときぼくが身につけていたのは、6年ぐらい前に中目黒で買った紺色の地にブルーのストライプが入ったウールのマフラー。
「その上(ジャケット)とよう合うとる。アンタ、ええセンスしとるな」
 60歳過ぎのおばちゃんにファッションをほめられた。
「うん、ほんまよう合うとるわ」
 そう言いながらおばちゃんは去って行った。


 昨日の日曜日、KJの校正の戻しが終わった。これで最終号がすべてぼくの手を離れた。あとは発送の準備やらなんやら、まだやることはあるのだが、これでKJが完全に終わったという気持ちの区切りがつく段階だ。
 でも、正直なところ、「終わった」という感慨は、ない。寂しくもなければ、悲しくもない。嬉しくもないし、そんなにほっとした感じでもない。なんだろう、この冷めた感じは。
 思えばこの5年、ありとあらゆる人と会い、考えられるありとあらゆることをやった感がある。5年前にKJを始めた頃は、髪の毛も黒かった。でも、いまやジョーと15R戦った後のホセ・メンドーサみたいになってしまった。濃密な5年だった。


 感慨がないのは、感慨にふけっている場合じゃないというのもあった。校正の戻しを東京に送り終えた後、事務所に戻って、早速次の仕事にとりかかった。倉敷市が発行する児島のPR雑誌『風と海とジーンズ。』。KJの校了日の翌日がこの雑誌の最終入稿日だったのである。
 日曜日の夜、リュウくん、ヒトミちゃん、『風と海とジーンズ。』編集長のぼく。事務所のコンパネの壁に貼付けた24ページ分の出力した用紙を眺めつつ、デザインを詰めていく。最後の最後、冒頭の2ページのキャッチコピーの位置がしっくりいかない。リュウくんがレイアウトしているそばから出力してテーブルの上で検討していく。A案、B案、C案、D案……なかなかこれという位置がない。E案あたりになって、リュウくんが「ヒトミちゃんもやってみる?」。ヒトミちゃんに代わって、F案、G案、H案、I案、J案……次々とあがってくるレイアウトにリュウくんがアルファベットの合い番をつけていく。
「Lの次って、なんでしたっけ?」
 リュウくんも相当きてるみたいだ。
「Mだ」
「N?」
「エ・ム!」
 M案までいったところで、しっくりいかないのはコピーそれ自体がよくないんじゃないかということになった。え、オレか? まあ、そう言い出したのはぼくなんだけど。
 結局、ヒトミちゃんが帰った後、リュウくんとふたりでコピーの検討会。
「やっぱ、ダサいな、ダサい! これないわ」
 ゼロに戻った。
 で、二行にわたっていたコピーの一行を削ることにした。肝心の後半の部分を。リュウくんが早速、一行だけになったコピーをレイアウトして出力した。
 出力したプリントを同時に見て、同時に確信した。
「生まれた……」
 かくして納得のいくコピーが誕生した。
「これ、通ったら(許可が出たら)、アヴァンギャルドですね」
「いや、通るとか通らないとかじゃなく、これでいく」
 こうなったら相手が市長だろうが県知事だろうがオバマだろうが、いくといえばいくのだ。


 本日、『風と海とジーンズ。』の入稿が終わった。KJに引き続き怒濤の2連チャン進行。どちらも燃え尽きた。そうだ、感慨がないのは燃え尽きたからか。「なんにも残らねえ、灰になっちまったよ」。オレ、ホセだけど。