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新・不定点観測写真と文:赤星 豊(krashjapan発行人)

vol.434 朗報?

 KJの最終号vol.10がいよいよ佳境を迎えている。昨晩は事務所を出たのが朝の4時半。今日も日曜日というのに昼の12時から事務所にこもって、現在、夜中の12時を回ったところ。本当はコラムなんか書いてるヒマはないんだけど、まあ気分転換によいかなと。
 だいぶん見えてきた、vol.10の全容が。実はこの号ほどリスクの高い号はKJ史上ない。なんといっても、特集の写真を全点ぼくが撮るという企画なのだから。昨春、このコラムでも何度か紹介した中判カメラmakina67。2年がかりで貯めた500円玉貯金を全部くずしてこのカメラを購入したのも、すべてこの特集のためだったのである。


 先週、すべての写真を撮り終えた。撮り下ろした点数はきっかり40点。今日はその40点を事務所の壁にはりつけ、リュウくんとヒトミちゃんと、どの写真とどの写真を見開き(2ページ)で組み合わせるかの検討を行った。ある程度の組み合わせが終わり、あらためて写真がずらりと並んだ壁を眺めてみる------悪くない。悪くないどころか、いい、コレ! もしも目の前にある写真が40ページの写真集になっていて、500円で売っていたら買うかもしれない。いや、買わないか、300円ぐらいだったら買うかな-----それにしてもタバコ一箱だ。たいしたことないな。いやあ、たいしたことないとマズいんだよなあ。
 たいしたことがあるかどうかは、あなたの目でvol.10を見て判断してほしい。配布は東京・大阪が3月11日から。岡山・倉敷は3月12日から、乞うご期待!


 岡山・倉敷在住のKJファンの方には朗報をひとつ。KJ本誌の発行と時期を同じくして、倉敷市が児島のジーンズのPR誌を発行する。タブロイド版24ページのこのフリーマガジン、なんと「Krash japan責任編集」と名うって、わがアジアンビーハイブが制作しているのだ。とても行政が発行したとは思えないつくりで、発行前から話題沸騰! かなりレアなものになることが予想されるので、早めに入手されたし。KJの配布店で配布を予定しています。
 さらに、さらにだ。今回ぼくが撮り下ろした写真40点を、岡山・問屋町のカフェ「maimai」にて展示することが決定した。つまり初の写真展を開催というわけだ。ちょっと調子に乗りすぎたかな。いやまあ、そんなに機会があるわけじゃないし。ともあれ、期日は3月13日から4月5日まで。3月14日の夜にはオープニングパーティも開催予定! パーティといっても、決してクラブを貸し切ってやるようなスカしたヤツじゃないです。カジュアルな、質素なやつです。ぼくはジャージを着て行きます。是非とも足を運んでにぎやかしてください。足を運んでくれるよね? 山陽新聞とか山陽放送(RSK)とか『タウン情報おかやま』とか。メディアが無視するんだったら、岡山広告温泉とか、ファイブグラフィックスとかレイデックスのみんなとか(レイデックスは現在社員デザイナーを募集しているらしいです、詳しくはhttp://www.reidex.co.jp/)。

vol.433 オカン退院

 昨日、オカンが退院した。やれやれだ。一番ほっとしているのはオトンだ。オカンの病室に一週間通しで宿泊した。最後の方は目が落ちくぼんでいた。5年前にオカンが入院しているときは、ぼくが金〜日曜日の3日間、オトンが月〜木曜日までの4日間を泊まり込むという生活を3ヶ月つづけた。そのときはオカンもまだ自分のことはなんとか自分でできていたんだけど、いまやそれがままならなくなってしまっている。ぼくが代わってやっても、なんにもできないのだ。


 家までの車のなか、オカンはほとんど口をきかなかった。入院中はあれだけわがままをずらずら言い続けていたのに。オトンは「環境が変わって人まで変わった」とずっと言っていた。表情もとぼしかった。でも、家に着いたとたん、オカンに笑顔が戻った。
「ほんま遠かったなあ、どこまで行くん思うたが」
 玄関に座り込んでオカンがそう言った。大丈夫、いつもと一緒だ。
「ほな、オレ行くからな」
「あら、もう行くん?」
「うん、仕事せんと」
「頑張ってなあ」
「うん、オカンもな」
 こうして赤星家に日常が戻ってきた。赤星家に日常が戻るということは、つまり夕方になると買い物に行ってご飯を作るということ。
「夕方、帰ってくるけんな」
「ほな、いってらっしゃい」
 入院しているのと、家にいるのと。どっちがいいかというと、まだこっちの方がいい。
 

vol.432 トリオの夕飯

 今日の午後は春みたいだった。車の窓を全開で走った。風が気持ちよかった。ちょっとひんやりしてたけど。夕方からは倉敷中央病院に行った。オカンが入院して4日になる。
 今日までの検査で結核ではないと診断された。ちょっとほっとした。結核と診断されていたら入院は長くなるはずだった。2カ月とか4カ月とか。もしもそうなったら困ったことになっていた。でも、入院している期間、ご飯を作らなくてもいいと思うとそのことでほっとしている自分もあり、さてどっちがよかったのかはわからない。ともあれ、まだ喀血の原因がわかっていないので、さらに検査入院は続くことになる。
 オカンはいたって元気だ。ベッドに横になったままうるさいぐらいしゃべっている。たいていは不平不満の類いだ。「もう家に帰る」とか「看護師さんを呼べ」とか言ってはオトンをオロオロさせる。それがまたしつこいのなんの。だいたいぼくが「家にはしばらく帰れんの!」とか「看護師さんも忙しいの!」とかキツめに言っておとなしくさせる。オカンの前では冷血漢のぼくなのだ。でも、今日のぼくは過去2、3年のなかでいちばん優しかった。昨日の晩、オカンの事をいろいろ考えていたらメチャメチャかわいそうになってきて、「明日は優しくしよう」と決めていた。
「これ、上にもちあげて」
 唐突にオカンに言われた。が、「これ」がどれなのかわからない。
「これって、これ?」
 腕の上に垂れた点滴の管をもちあげた。
「違うわ、それいろうたら(触ったら)いけんのんじゃが」
「はあ、ほな、これ?」
 オカンの手をとってもちあげてみた。
「なにしよん(なにしてるの)! これじゃが」
 この時点で、すでに結構きているぼく。でも怒ったりしない。
「これか?」
 オカンの胸のところに置いてあったタオルをもちあげた。
「違うがな」
「これ?」
 布団をもちあげた。
「違うわ!」
 ぼくの額には「井」みたいなマークが浮き出ていたかもしれない。それでも怒ったりしなかった。今日のぼくはまるで仏さまのようだった。
「もうええわ」
 ため息まじりに言われた。結局、「これ」がなんだったのかはわからずじまい。もしかしたら、目には見えないなにかがオカンのうえにのっかっていたのかもしれない。貞子みたいなのが。


 帰りにトリオ食堂に寄って夕飯を食べた。ここでのご飯は本当に落ち着く。家よりもずっと。ここしばらく、こんな生活がつづくような気がする。大変だと思われるかもしれないけど、ご飯は作らなくっていいし、オカンは元気だし、トリオのご飯はおいしいし。実は入院前の普通の生活よりも楽だったりする。明日もオカンには優しくしよう、と車のなかで思った。

vol.431 とくに用事は

 いつも始まりは電話だ。土曜日の夕方、オトンから留守電が入っているのに気づいた。聞いたのはオトンが留守電を入れてからほぼ1時間後だった。
「とくに用事はないんじゃけどな」
 たったそれだけ。とくに用事もないのに電話してくるような人じゃない。パンを買ってきてくれといった類の瑣末な用事では絶対電話してこない。なにかあるのだ、あんまりよくないことが。
「どしたん?」
 すぐにオトンに電話した。
「おお、まあの……」
 歯切れが悪い、しかも声が小さい。限りなく100パーセントに近い確率でなにか悪いことがあったのだ。
「なんかあったんじゃろ?」
 そこでやっと本題へ。
「オカンがの、血ィ吐いたんじゃが」
「血ィィイ?」
「なんじゃろうかのお?」
「そんなん知らんわ。病院は?」
「行った方がええかのお」
「そりゃ行かんといけんじゃろ。どれぐらいの血なん?」
「まあ結構な量じゃの。なんじゃろうかのお?」
「そんなん、オレがわかるわけないじゃろ! ちょっと待っといてや!」
 すぐに倉敷中央病院に電話し、急患で受け入れてもらうことになった。車の後ろにオトンとオカンを乗せて倉敷まで30分。オカンはわりと元気だった。でも、車のなかで何度か咳き込んでは喀血した。ぼくは少々イラついていた。これまでのオトンの絵に描いたようなオロオロとした様子に。


 病院に着くとすぐに検査が始まった。点滴を受けながらの問診、レントゲン、CT検査。オカンは泥酔したリュウくんみたいだった。点滴の針を抜こうとしたり、指につけた検査の器具を勝手に何度もとったり。ちょっとおとなしくなったと思ったら「トイレに行きたい」と何度も訴える。一瞬も目が離せない。
 夜の10時頃に病棟に移され、検査入院することを告げられた。入院を口にすると、オカンは「入院はせん、帰らして」と看護師さんにだだをこねまくった。「お父さんをひとりにはできん、あの人はな、おらんようなるけんな。それでも大事に育ててもらいました。ようしてもらいました」
 涙が出そうになった。いろんなことが悲しくて、切なくて。


 結局、オトンが一緒に泊まることになった。1階の防災センターに行って、オトン用のふとんを借りた。オトンが寝るのは病室の隅っこにある小さなソファ。あの時とまったく一緒だ。5年前にオカンが脳梗塞で入院したときと。
 病院を出ると11時を過ぎていた。どっと疲れた。あんまり食欲がなかったけど、帰りに屋台でラーメンを食べた。あんまり食欲がなかったけど、煮玉子をつけてもらった。あんまり食欲がなかったけど全部食べた、おいしかった。
 これからどうなるかわからないけど、まあなるようにしかならないと思っている。ぼくはそのときできることをやるまでだ。「よりによってこの時期に…」という思いはなかなか拭えないんだけど。

vol.430 初給与

 初の給料を払った。もらうヒトミちゃんも初めてなら、支払うぼくも初めてという初めてづくし。支払い日の朝、イジリー岡田のいるナンバに給与明細書なるものを買いにいった。税込みで231円。居酒屋の伝票みたいな細長いカタチをしていた。表紙の裏にある記入例を参考に、税理士の島津さんから教えてもらった額を明細書に書き込んでいく。2分でできた。
「ヒトミちゃん、これあげる」
「なんですか?」
「給与明細だ! ほら!」
 初めてづくしだからぼくのテンションは若干高め。額も額だし
「はあ」
 一方、初めてもらうはずのヒトミちゃんはほぼ無反応。そこに置いておいてくださいと言わんばかりのクールな態度で。
「あのさ、お金は昨日振り込んでおいたから」
「どうもありがとうございます」
「い、いえ、どういたしまして」
 早々にぼくは自分のデスクに戻った。


この約1カ月で相当な浪費をした。まずはぼくのimac。ひとつ前のモデルとはいえ10万円ぐらいした。次にカラーガイドのDIC。2万円以上もした。グラフィックやタイポの本は6冊で総額2万円オーバー。痛かったのがアドビのイラストレーターとフォトショップ。両方でパソコン代をはるかに超えた。さらにオフィスに蛍光灯を3カ所取り付け、約8万円。昨秋の世界一周のギャラがみるみる目減りしていくのを目にしているわりに、いま必要でもない文房具なんかわりとちょこちょこ買ったりして、どうも金銭感覚が麻痺しているかもしれない。このままだと、ヒトミちゃんの来月の給料は危険だ。来月はなんとか払えても、3月はマジでヤバい。事務所のパソコンとか自転車とか、早くも現物支給が実現するかもしれない。


「ヒトミちゃん」
「はい?」
「今日から節約番長だ、いいね」
「はい」
 給料日に任命した。我が社の節約担当。明日は節約番長のヒトミちゃんに、インクジェットのプリンターの購入を相談するつもりだ。さて彼女、どんな反応をするか。